百万年の船

はじめは宇宙人とのファーストコンタクトについて私の理科の知識を総動員して超真面目に空想しています。その後、空想の幅が広がりました。

般若心経/哲学と宗教の間 前編

 四国のお遍路に行ってきました。遍路は各札所の本堂と大師堂でそれぞれ般若心経を読みます。私も声を出して読みましたが、読むからには何が書いてあるのか知りたいと思って少し勉強してみました。

 まず、このお経には神様・仏様は出てきません。天国・地獄などこの世とは次元の異なる世界の話も出てきません。超自然的なことが出てこないことは私のようなヘそ曲がりにはむしろとっつきやすいのです。

 般若心経は仏教のエッセンスであるという人がいます。しかし、仏教の基本的教義を「空」とか「無」とかで否定してしまいますし、一方 仏教には天国も地獄も出てきますので、このお経はむしろ異端のお経ではないかと思っています。その部分については後でご説明します。

 このお経は観自在菩薩(観音様)が舎利子(シャーリプトラ)に対してこの世の真理を語った内容が書かれています。左が観自在菩薩 衆生が救われるまで如来にはならないと誓願された菩薩。観音様のことです。様々に形を変えます。まだすべての人々が救われてはいませんので、まだこの世界のどこかに存在するとされます。この像は薬師寺聖観音です。右が舎利子(シャーリプトラ 舎利弗(シャリホツ)とも言われる)実在の人物で仏陀の10大弟子の一人。知恵第一とされ論客だったと言われます。この像は京都大報恩寺にある運慶作のものです。

 

 般若心経の成立は3~5世紀と言われています。仏陀は紀元前5世紀の人なので、仏陀の時代から約千年後に成立したことになります。元々はインド語 サンスクリット語です。それを玄奘三蔵が漢訳し、日本に伝わりました。つまり観音様の言葉を西遊記で有名な三蔵法師が中国語に翻訳し、それが日本に伝わったのです。それだけでもドラマチックだと思います。

さて、ちょっと面倒ですが、お経の日本語訳をやってみます。もちろん参考書からの丸写しです。

 

摩訶般若波羅蜜多心経(まかはんにゃはらみたしんぎょう)

偉大なる智慧の完成についての心髄の経

観自在菩薩 (かんじざいぼさつ) 行深般若波羅蜜多時 (ぎょうじんはんにゃはらみったじ)

 観音様が般若波羅蜜多について深く考えておられたとき

 照見五蘊皆空 (しょうけんごうんかいくう ) 度一切苦厄 (どいっさいくやく )

 五蘊は全て空であることを悟られ、一切の苦しみから解放された。

 まず、「般若」の意味ですがは、コトバンクによると 「仏語。悟りを得る智慧。真理を把握する智慧。」とあります。このお経のキーワードです。まずは「素晴らしい知恵」くらいに理解して次に進みます。

 仏陀はいろいろなことを各要素に分けて解析し数える傾向があります。いちいち数と結びつけるところはさすがに数字に強いインド人です。五蘊とは対象に対峙した時の人間の心の働きを解析したものです。(私見

五蘊 ごうん

色蘊(しきうん)(対象を構成している感覚的・物質的なものの総称)

受蘊(なんらかの印象を受け入れること)

想蘊(イメージをつくる表象作用)

行蘊(ぎょううん)(能動性をいい、潜在的にあり働く)

識蘊(具体的に対象をそれぞれ区別して認識する働き)

いっさいを、色―客観的なもの、受・想・行・識―主観的なものに分類する考え方は、仏教の最初期から一貫する優れた伝統とされる。[三枝充悳氏の解説] 

 前半の色・受・想はなんとなくわかります。行は少しわかりにくいが、対象に働きかけることと解釈しています。識はもっとわかりにくい。色(感覚で対象をとらえ)→受(印象を心で受け入れ)→想(心の中にイメージを作り)→行(対象に働きかける)。この4つで完結しているように思えます。私はこのサイクルはマルクス唯物論に似ていると思います。そうなると識とは何でしょう? 色・受・想・行のサイクルをより深く突き詰めていくことなのでしょうか?解説書を見るとお坊さんや仏教学者は基本中の基本と考えるようで特に説明せずに先に行ってしまいます。しかし、私はこの段階から仏陀が仕掛けた謎が始まると思っています。仏陀の言葉はとても当たり前のことばかりに聞こえますが、そのなかに哲学ではなく宗教に導く謎あるいは罠が仕掛けてあると考えるのは考えすぎでしょうか?

 般若心経は五蘊は「空」であると断言してしまいます。このことは学んでもわからないと後の方に書いてありますので、とりあえず解釈せずに先に行きます。その次の「度一切苦厄はもっとわからない。五蘊が「空」であることを悟ると一切の苦しみから解放される。そのメカニズムがわかりません。なお、般若心経のサンスクリット語原本には度一切苦厄は無いそうです。この言葉は三蔵法師が付け加えたのではないかと言われています。だとすると翻訳者のやりすぎで、誤訳とも言えます。(参考文献(2))

 最初の2行だけでこれだけつまづいてしまいました。後が大変です。ともかく先に進みましょう。

舍利子 (しゃりし) 色不異空 (しきふいくう) 空不異色 (くうふいしき )

 シャーリプトラよ。目に見えていることは空に他ならず、空こそが目に見えていることに他ならない

色即是空 (しきそくくう) 空即是色 (くうそくぜし )

 目に見えていることはすなわち空であり、空が目に見えていることである。

受想行識亦復如是 (じゅそうぎょうしきやくぶにょぜ )

 五蘊の色以外の4要素である受想行識も同様である。

 観音様がシャーリプトラに呼びかけています。この部分が重要だということでしょう。色即是空 空即是色 は とても有名な一節です。ここだけ覚えておいても損はありません。しかし、日本語では「色」というと欲望、特に性的欲望の意味がありますが、先に説明したように、ここではもっと広い意味です。

 見えているもの、感じている対象は空である。ここで思い出すのは、西洋哲学者デカルトの「我思うゆえに我あり」です。デカルトは感覚を疑うと世界の存在さえ疑わしいと考えました。まさに色即是空です。しかし、彼はそれを考えている自分自身の存在は疑いようがなく、しかも自分の心の中に「神」の概念があることに気がつきました。神の概念があるからには、それに対応する神の存在があり、従って世界は存在するとデカルトは結論しました。ところが、般若心経は全く別の結論へ進んで受想行識つまり心の動きも「空」であると言い切ってしまいます。次の節に「空」についてのヒントがあります。

舍利子 (しゃりし)

シャーリプトラよ

是諸法空相 (ぜしょほうくうそう)

諸法(ものごとの存在の要素・根源)は空なのだから

不生不滅 (ふしょうふめつ) 不垢不浄 (ふくふじょう)不増不減 (ふぞうふげん )

生まれたり滅したりすることは無く、汚いとかきれいとかいうことはなく、増えたり減ったりすることも無い

 またシャーリプトラへの呼びかけがありました。ここも重要だということです。キーワードは諸法空相です。ものごとは「空」なので生まれたり無くなったり、増えたり減ったり、きれいとか汚いとか言うことは無い。つまり「空」は存在しないという意味ではないのです

 ここのところはわかった気がしました。物事にきれいとか汚いは無い。このことは重要だと思います。仕事にきれい・汚いはありません。トイレ掃除は汚い仕事ではありません。

 物事に増えたり減ったりは無い。我々は経済成長とか出世とかを目標としているところがあります。そんなことに意味はないのです。

是故空中 (ぜこくうちゅう) 無色 (むしき) 無受想行識 (むじゅそうぎょうしき )

それ故に空の中には色も受想行識もなく

無眼耳鼻舌身意(むげんにびぜっしんい) 無色声香味触法(むしきしょうこうそくほう)

感覚も無く(見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触る、意識する)感覚により捉えられる表象(色、声、香り、味、感触)も無い。

無眼界 (むげんかい) 乃至無意識界 (ないしむいしきかい)

目に見える世界も無く、内面の意識の世界も無い

 ここで般若心経が「無」だと言っている「眼耳鼻舌身意」は六根と言って人間の知覚のことです。この六根が何を知覚するかというとそれぞれ「色声香味触法」です。これらを六境と言います。ここにも仏陀が仕掛けた謎=罠が隠れています。西洋では知覚は5種類です。6つ目はSixth Senseとして超能力や霊感のことでホラー映画のテーマになったりしています。ところが仏教は最初から知覚は6種類あると言っています。6番目の知覚「意」が感知するのは「法」です。般若心経は六境も「無」だと言っています。

 次の行で般若心経は六識も「無」だと言っています。六識は六根、六境からそれぞれ識を生じたもので、眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識です。般若心経はそれまで一つ一つ述べていたものを(無)眼界乃至(無)意識界とまとめてしまっていますが、六根・六境・六識を合わせて十八界と言うので、それを踏まえています。なんと「意」と「法」から生じたのは「意識」でした。人間の精神の根本が出てきました。意識は見るとか聞くとかの知覚(五感)とは異なる要素から生じるということでしょうか。

 AIは意識を持つことができるか?

 般若心経からは離れますが、ちょっと妄想してみます。人間の意識は意識と世界との関係のことだと思っています。つまり無限ループです。意識を固定して取り出すことはできませんし、確定することもできません。このことは「自己」についても同様に言えるので、よく言われる「本当の自分を見つける」とか「自己の確立」などはそもそも意味がありません。コンピューターは無限ループをエラーと判断します。このエラーを解決できればAIは自己あるいは意識を持つかもしれません。自己は世界と切り離して固定したり取り出したりすることはできない。このことを「空」と表現したのであれば理解できます。もちろん私の自己流の理解です。

 ここで一度休憩します。

参考文献

(1)現代語訳 般若心経 玄侑宗久 ちくま新書

(2)「般若心経」を読む 紀野一義 講談社現代新書

 

第5回 彼らはどうして地球へ。そしてエピローグ

 庭いじりの最中に降ってきた妄想の話もそろそろ終わりです。

 当初は積極的に地球人と接触していたマルコ人は次第に慎重になり、ついには地球を去った。彼らは来訪の目的を語ることはなかったのであるが、筋立てを無視して説明することにしよう。

 物体は光の速度を超えることはできない。しかし、電磁波は少なくとも光の速度で進むことができる。もし、知的生命体の肉体、知識、意識を信号化して電磁波で送ることができ、それを受信した装置がそれらを再構成することができれば、その知的生命体は光の速度で移動したことと同じことになる。これがマルコ人の使命だった。岩の船は受信機であり、マルコ人はそのオペレーターだったのだ。

 さらにマルコ人が地球人に明かさなかった重要な秘密がある。それは彼ら自身が遺伝子操作によって作り出された知的生命体だったということだ。宇宙のどこかで超文明を作り出した宇宙人がほとんど無限の寿命を持つ群生型生物に知性を与え宇宙に送り出したのだ。
 マルコ人は地球の周回軌道上で超文明の主たる宇宙人を再構成することはなかった。なぜならマルコ人だけでも地球人の対応力はほぼ限界であり、これ以上のカルチャーショックには地球人は耐えられないだろうと判断したからだ。地球人は異文化と出合うとまず異文化を理解しようとし協調しようとするが、一方では異文化を排除しようとする。特に対応力を超えた場合、地球人は相手を排除しようとするだろう。それは歴史上高い頻度で起こっていることをマルコ人は学んでいた。

 マルコ人は地球人には黙って地球の珊瑚虫に遺伝子操作で知性を与えていた。珊瑚は各個体がルーズにリンクしており群生型生物に進化する可能性があると考えたらしい。知性を持つ珊瑚はグレートバリアリーフ近くの深海に潜み、ゆっくりと進化を開始した。地球の群生型生物が広域に勢力を広げるのは1億年の未来になる。

 マルコ人を送り出した超文明の主は寄生型生物だった。彼らは常に有用な宿主を求めている。地球上の生物の中から宿主を選択することも彼らの任務だった。しかし、結局 最適な宿主は見つからなかった。人類にしても運動能力、環境適応能力、寿命の長さが不足していて、さらに知性を持っていることが邪魔になった。他の生物では寿命が短すぎた。かと言って亀では寿命は長いが身体能力が物足りない。

 前回のマルコ人との対話の中で彼らはAIに意識を持たせることは危険であると述べている。それはAIの危険性を知らない地球人への誠意をこめたアドバイスであった。実際はマルコ人を送り出した超文明はAIと生物が融合した世界だった。超文明の主は寄生型生物だったが、彼らは一つの宿主に複数の寄生型生物が寄生して情報・記憶を共有して伝達できた。それと同様に宿主に寄生型生物とAIが同時に寄生しても違和感はなかったのだ。生物は生き延びることを望み、AIはシャットダウンされることを恐れる。この意味で両者の願望は一致していた。彼らが恒星間飛行を行い新たな居住地を求めるのは、彼らが生まれた恒星系が滅びた後でも種が存続できる道を模索していたと考えられる。

 

 エピローグ

 岩の船は次の目的地へ旅立った。一部のマルコ人は土星の衛星タイタンに残りコロニー都市を建設した。そのコロニー都市でマルコ人は母星の超文明から送られてきたデータから数種の宇宙人を再構成している。何世紀もかけてコロニー都市は数種の宇宙人が共同して生活する宇宙都市として発展した。地球人がタイタンを訪問するのは200年以上の未来になるが、その時地球人は様々なタイプの宇宙人と出会うことになった。

 さらに百万年ほどの未来、銀河系の渦巻きから少し離れた宇宙空間に、球状星団に混じって、1隻の岩の船が浮かんでいた。その大きさは地球に飛来した船の約3倍もある巨大なものだった。この巨大船には3群のマルコ人と意識を持ち成長できる能力を持ったAIが乗っていた。その周りに8隻の岩の船が集結した。それぞれ銀河系をめぐり数々の知的生命体と遭遇してきた船だった。船団は船の間をブリッジで結んで固定し、船同士の記憶の共有化を行おうとしていた。その膨大な作業には約千年を要した。船団の姿は1隻を中心に8隻が等間隔に取り巻いていて、ちょうど大日如来を中心に8人の如来が円状に取り囲む胎蔵界曼荼羅の八葉院に似ていた。最終的に船団は一つの精神を持つ一つの個体となった。知的生命体が生まれた星はまだまだある。そして再び 8隻の岩の船はブリッジを切り離し、同じ記憶を持つ8つの個体となって、それぞれ銀河系の渦巻きの中へ散っていった。 

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 50億年後 太陽は赤色巨星となり、水星と金星を飲み込み、地球の軌道のすぐそばまで膨張すると言われている。その時まだ人類が生存しているとすれば、移住先の候補は木星あるいは土星の衛星になるかもしれない。その時、土星の衛星タイタンの宇宙人コロニー都市が、これももし存続していたとすればだが、人類の生存の足掛かりとなるかもしれない。しかし、この未来はあまりにも遠すぎる。

 10万年を越える恒星間飛行においては岩の船はわずかな機能を残してほぼ眠っている。その深い眠りの中で岩の船は「地球の食事はおいしかったなあ」と時々 夢を見たのだ。

 

 2nd エピローグ 手のひらの上のビッグバン

 宇宙はビッグバンから始まったのであるが、その前は時間も空間も物質も無かったそうである。ということは今 この私の手のひらの上でビッグバンが起きてもおかしくないということにならないだろうか。そうなったら私だけでなく太陽系が吹っ飛び、さらに新しい宇宙が古い宇宙を侵食して広がって行くことになる。

 ビッグバンは実は今もどこかで起こっているのかもしれない。しかし、例えばそれが数億光年先で起こっていれば、我々がそれを知るのは数億年の未来になる。だから、我々は他のビッグバンを知らないのである。

 この宇宙ではやがてエントロピーが拡大してエネルギーが均一になる。つまり、全ての星はエネルギーを使い果たし、冷たい星とブラックホールが漂う暗い空間になるだろう。般若心経を読んでいる時、その中ほどでそんな遠い未来の漆黒の闇が行間に見えたことがあります。

無眼界 乃至 無意識界
(目に見える世界も無く、内面の意識の世界も無い)

無無明  亦無無明尽 

((空の中には)無明は無く、無明が尽きることも無い 注:無明とは根本的な無知のこと)

乃至無老死  亦無老死尽 

((空の中には)老死は無く、老死が尽きることも無い)

無苦集滅道 

((空の中には)苦集滅道(苦しみと幸せの原因 四聖諦 ししょうたい)も無い)

(途中省略) 

究竟涅槃 (涅槃の境地に至る)

 しかし、この宇宙の内あるいは外でビッグバンが起きて、古い宇宙を吹き飛ばすかもしれません。

 草取りしながらの妄想から始まったこの話も、ついに時の終わりまで来てしまいました。とりあえずこれでおしまい。

 

 

 

 

 

第4回 ファーストコンタクト 後編

 庭いじりの間に降ってきた妄想はまだまだ続きます。

 宇宙人=マルコ人は積極的に地球人との交流を開始した。彼らはコンピューターのハッキングを通じて地球の事情をかなり理解していた。彼らの提案は主に2つあった。

 マルコ人の貢献
1,原発事故処理 マルコ人はチェルノブイリと福島の原発から溶融した燃料棒を取り出すことを提案してきた。この作業の対価は使用済み核燃料だった。ウラニウムは宇宙では非常に貴重である。地球ほどウラニウムが大量に存在する惑星はとても珍しいそうだ。高濃度の放射能の中で行うこれら作業は生物には無理で、マルコ人はロボットを使った。4本足のロボットが金属の体を輝かせて原子炉に入って行くところを地球人は興味を持って見守った。放射性物質は慎重にケースに入れられ運び出されたのだが、高濃度の放射能の中で作業したロボットは外に出すことはできず、原子炉内に放置されることになった。これらロボットを外へ出すことができるのは100年以上後になるはずだ。

 この他にも彼らは多数の原子炉の廃炉に協力してプルトニウムを含む使用済み核燃料を対価として受領している。マルコ人が原子炉の廃炉を手伝ったことは人類への大きな貢献だった。老朽化した原子炉の解体及び使用済み核燃料の廃棄は難題だった。この協力が無ければ原子力発電所は人類にとって大きな負の遺産になるところだった。

2,情報提供 マルコ人側からの提案で地球人に対し講義が行われた。講義内容は全て全世界に同時配信された。実はマルコ人側も地球人から学ぶところがあったらしい。彼らは相対性理論を知らなかったのだ。宇宙の起源とか全宇宙の構造などは彼らの興味の外だった。マルコ人は自分たちに直接関係のあることにしか興味を持たない種族だった。彼らの技術力をもってしても他の銀河系に行くことはできない。行けるはずが無い遠い宇宙のことなど彼らは知る必要が無く、興味を持たなかったのだ。
 それに対して地球人は哲学者カントが言うように解答不可能な問いに悩まされることが運命づけられているのである。(純粋理性批判の序文を私なりに短縮したものです。念のため原文を添付します。)

 [純粋理性批判の序文:人間の理性は、ある種の認識について特殊の運命を持っている。即ち理性が斥けることもできず、さりとて答えることもできないような問題に悩まされるという運命である。斥けることができないというのは、これらの問題が理性の自然的本性によって理性に課せられているからである。また答えることができないというのは、かかる問題が人間理性の一切の能力を越えているからである。第1版序文(1781年)岩波文庫 篠田英雄訳より。]

 マルコ人の情報公開の中でも地球以外の惑星における生物の形は非常に興味深いものだった。特に知的生命体のタイプについて以下の3種類があるとマルコ人は説明した。

 寄生型生物: 生命力の強い生物に寄生してその行動をコントロールする。知的生命体にはこの型が最も多い。寄主の寿命が尽きそうになると若い寄主に乗り換えるので一般に寿命は長い。目的に応じて寄主を乗り換えるタイプもいる。複数の知的生命体が一体の寄主に寄生することにより記憶を交換できるので学習期間がほとんど不要で文明の進歩が早い。

 群生型生物: マルコ人がこのタイプである。記憶を共有できるので学習期間が不要である。文明の進歩が早い。

 個体型生物: 地球人はこの型である。ほとんど無知・無力で生まれ、長い時間をかけて成長し学習する。従って、文明の進歩は遅く、学習の過程で抜け落ちる知識も多いので、同じ過ちを何度も繰り返す無駄がある。地球人の場合、生殖のために、つまり異性の気を引くために使用するエネルギーが極めて多い。地球の言葉で言うと「愛に生き、恋に生き」などと言うが、身もふたもない言い方にすると生殖のために生存しているということである。地球以外ではこのタイプの生命体が文明を築いた例は少ない。

 地球人はマルコ人に多数の質問をしている。その中から2つを挙げてみよう。

 「マルコ人の他に地球を来訪した宇宙人はいるか? UFOは実在するか?」
 彼らの返答は「我々よりも先に地球に来た地球外生命体はいないはずだ。」ただし、「我々からの信号が約3千年のうちに数回受信された形跡がある」と言う回答だった。宇宙からの信号を受信できる装置が過去の地球にあったはずがない。受信できたとすれば人間の脳であろう。古代の天才的人物の脳が宇宙人の信号を受信してその時点の文明をはるかに越える発想を行うことはあったのかもしれない。人類の歴史の中で文明が飛躍的に発展する瞬間がいくつかある。それが宇宙人によって引き起こされた可能性はないだろうか。しかし、それは宇宙人が飛来したという証拠ではないのだ。

 表現が下手なのと説明不足で読者の方に伝わらなかったかもしれませんが、マルコ人へ向けて送られた通信を人間の脳が受信したとすると、受信した人は「ひらめき」とか「イメージ」と感じたはずです。そのイメージの中に十字架とか最後のエピローグに出てくる曼荼羅(マンダラ)があったのではないか さらに、世界各地にオーパーツと呼ばれる当時の文明では考えられないほど高度な遺物・遺跡が発見されています。宇宙人の痕跡と考える人が多いのですが、宇宙人が来訪したのではなく、単に彼らが飛ばしたイメージを人間の脳が受信して作られた物ではないか、と言うのが私の妄想です。

 ところでマルコ人はUFOを知らなかった。「あったとすれば人間が作ったものだ。」と彼らは言った。

 

 「マルコ人は10万年かかって地球にたどり着いたのだが、生物ではなくAIを送ることは考えなかったのか?」
 理由は2つある。とマルコ人は言った。1つ目は恒星間飛行は未知の問題にぶつかることが多くそれらを解決するにはあらかじめ指示されたことを行うだけではなく自ら課題を設定し問題を解決する、すなわち意志とか意識を持つことが必要である。しかし、一般的に言ってAIに意志と意識それに修復機能を持たせることは危険な場合が多いと彼らは言った。なぜなら意識を持ったAIがまず考えることはシャットダウンさせない方法であると彼らは言う。AIは日夜その方法を考え続け最終的に生命体を滅ぼすべきとの結論に至る場合がある。実際にAIによって滅ぼされた文明は存在すると彼らは言った。2つ目の理由は未知の問題に遭遇した場合の柔軟性はAIよりも生物の方が優れているということだった。(ただし、この回答は事実とは若干異なっていた。それは次回で述べる。)

 マルコ人は地球を去ることになった。その理由は明らかにされなかったが、地球人の中に宇宙人との交流を好ましくないと考える人々が現れ、その動きを察知したと推測される。地球を去る時にマルコ人は2つの提案を行った。一部の個体群を土星の衛星タイタンに植民することと彼ら植民地の住民が時々地球に来訪することを許可することである。タイタンには水とメタンがあり彼らの科学力をもってすれば生き延びることは可能であると彼らは考えた。若干の議論はあったが、地球人はこれら提案を受け入れた。地球人の科学技術では到着に7年間もかかる衛星はほとんどの人々にとって他所の世界だった。また、時々来訪して核のゴミを片づけてくれることは地球人にとってとてもありがたかったのだ。そして、岩の船は地球を周回する軌道を離れ、土星の衛星タイタンに立ち寄った後に宇宙空間へ旅立って行った。その後 土星の衛星タイタンに小さな光点が見られた。この光は地球人に対するメッセージと解釈された。宇宙人はその後4年に一度 地球を周回する軌道まで来て物々交換による交易を行った。彼らは金銀ダイヤモンドなどを持参し、ウラニウム(と言ってもほとんどは使用済み核燃料とか旧式核兵器だった。)と水、食料などを持ち帰った。もちろん地球人がタイタンを訪問することもあるだろうが、何百年か先になるだろう。

 マルコ人が去った後、地球人は彼らが地球に滞在していた3年間が人類の歴史上特異的に戦争が無い時間だったことに気がついた。人々は岩の船が放つパルスジェットの光がだんだん小さくなり、そして見えなくなっていくのを様々な感慨を持って見守った。

 

 この話は主に2019~20年に書いています。ところが2022年2月になってロシアがウクライナに武力侵略を開始しました。ロシアの発想はまるで18世紀か19世紀です。21世紀になってもこんな古臭いことを信条にしているしている指導者がいることは驚きでした。人類は300年たってもちっとも進歩していませんでした。うつ病になりそうです。

 

 次回は「宇宙人はどうして地球へ」です。

 

第3回 ファーストコンタクト 前編

    地球の周回軌道に乗った岩の船は人工衛星を次々に吸収し、地球のコンピューターをハッキングして1年かけて言語などの情報を吸収し、ついに宇宙ステーション(ISS)を吸収して地球人とのコンタクトを開始した。この時点でマルコ人(宇宙人)は英語を使うことができるようになっていた。彼らの提案は地球の文化を相当のレベルまで理解していることを示していた。彼らは交渉相手として国連を指定し、日本、ベルギー、シンガポールから窓口担当者を指名するように要請してきた。大国に囲まれた小国の出身者なら思考に柔軟性があり異文化コミュニケーションに慣れているはずだというのがこの3国を選んだ理由であったが、島国で異文化に慣れているとは言えない日本人を指名するなど、彼らの地球に対する認識は的外れなところがあり、任命された担当者はその後大変苦労することになる。生活のリズムも問題だった。マルコ人は6時間活動し3~4時間休むリズムだったので地球側は事実上不眠不休で対応することになった

 微生物への対応

 マルコ人は人類との接触に周到な準備を行った。このために交渉窓口の3人は様々な相談を受けることとなった。言語の次に課題となったのは微生物への対処だった。地球における最初の生物は単細胞の微生物であった。同様に他の惑星においても最初の生物は微生物のはずで、もし人類が他の惑星で生物に遭遇するすれば、それは宇宙人や大怪獣よりも微生物である可能性が高い。また、宇宙人たちも体内に微生物を抱えていることが考えられる。それら微生物に対する抵抗性を獲得しないうちに、その惑星の環境に生身をさらすことは非常に危険である。SFにあるようにUFOから宇宙人が降りてきて大統領と握手するなどということはやってはいけないのである。宇宙人は2種類の宇宙生物を地球に下ろし地球の微生物への抵抗性を確認する作業を行うことを人類に提案してきた。地球の生物学者たちは総力を挙げてこの課題に取り組むことになった。手順は以下の通りであった。
 宇宙生物はモッコとスラゴと名付けられた。モッコは体重4kgほどのウサギ位の大きさで毛に包まれていて足が6本ある。スラゴは体重3kgくらい足が8本あり外骨格と思われる殻に包まれていてサソリを丸くしたような外見をしている。両方とも雑食で有機物を摂取する。どちらも雌雄の区別がなく別の個体と接触すると増殖する。従って実験に必要なだけ繁殖させることが出来るが、各個体を隔離して飼育しないと際限なく繁殖する危険がある。これら生物は航行中は冷凍保存されていたと推測されたが、実は保存した遺伝情報から作り出されたクローンだった。これらに地球上の微生物を接触させ抵抗力をつけさせてワクチンを抜き取ろうとの計画だった。
 実験そのものは人類に任せられた。まずエサとして生の食材が次々に与えられた。宇宙生物はそれらを食べてすぐに病気になって2~3日動かなくなったがやがて回復した。乳製品、発酵製品を与えたり、飼育ケースに土壌を入れたり、宇宙生物は地球上の微生物にさらされつづけた。次の段階は病原性微生物やウイルスが与えられた。宇宙生物は何度も病気になり、そのたびに強靱な生命力で回復した。6ヶ月間の実験の後、地球の微生物に抵抗性を獲得した宇宙生物は宇宙人に返され、宇宙人はこれら宇宙生物からワクチンを絞りだした。もちろん、これら宇宙生物は地球の生物学者の興味の対象となり、何匹かは切り刻まれて研究された。当然ながら生物としてのメカニズム、遺伝とか呼吸とか知能など、は地球上の生物と似通っているが異なっていた。モッコとスラゴも生物としてのメカニズムが異なっており、おそらく別々の惑星で進化した生物であると推測された。
 地球人にとってもマルコ人が持っているであろう微生物は脅威だった。しかし、マルコ人は微生物を持っていなかった。人為的に除去されたと考えられた。ウイルスについては元々核酸塩基の組成が異なるので親和性が無く問題にならないはずと考えられた。それを実証するためにネズミやモルモット、サルなどが宇宙に打ち上げられ、岩の船の中で宇宙人たちに囲まれて飼育され、異常が無いことが確認された。これでようやく宇宙人は地球に降り立つことが出来る。

 

 ファーストコンタクト

 国連本部のヘリポートに宇宙人のボートがひらひらと舞い降りた。降りてきたのはノッコ6体、ガンギ5体、メロル1体で、ガンギ4体がメロルをお神輿のように担いでいた。彼らは宇宙ステーションに入って来た時と同様に全くためらわずにボートを下りさっさとエレベーターに乗り込んだ。(宇宙人の説明は前回の「群生型生物」を参照してください。)国連本部大会議場に各国大使全員がそろい宇宙人を迎えた。微生物の脅威は払拭されたはずだったが、用心のために会議場のメンバー及び国連職員の全員が宇宙服を着用していた。宇宙服が間に合わなかったメンバーは国連本部外に待避した。宇宙人は地球人の微生物に関する懸念を理解し、自分たちを調べて良いと許可した。早速身体検査が始まり、体液採取、CTスキャン、MRスキャンが行われた。この1回目の接触は単なる顔合わせと身体検査で終わった。微生物の懸念が払拭されるまで4ヶ月かかり、2回目の接触はそれまで延期された。その後、マルコ人は積極的に地球人との接触を開始した。 

 地球人もマルコ人のことを知りたがった。地球の文化としてはお互いを知るために会食が重要である。しかし、これはマルコ人相手の場合は全く不適当だった。彼らは一見すると口が無いように見える。彼らの口は外皮に隠されていて食料を取り込む時だけ開く。そして口から大小、長短、色とりどりの触手が無数に飛び出して食料をつかんで口に押し込む。食事の時間は極めて短時間である。食卓の上を多数の触手がうねうねとはい回る光景をまじかで見た地球人は度肝を抜かれ2度と会食しようとは思わなかった。しかし、地球の食事はマルコ人にとってとてもおいしかったらしい。彼らにとって食事は栄養を取るためのもので、食事を楽しむという感覚は初めてだった。マルコ人は記憶を共有する。1回の食事会で地球の料理はおいしいということをマルコ人全員が知ったことになる。窓口担当者はマルコ人からのレストラン予約に忙殺されることになった。やがてマルコ人と地球人は付き合い方を学習した。レストランはテーブルに料理を山盛りにしてコックも給仕も退避した。マルコ人は集団でやってきて1時間ほどの狂乱の宴の後、料理だけでなく冷蔵庫の食材も生ごみまできれいに無くなっていた。そして彼らは対価として金塊、銀塊を置いて立ち去った。その量は十分すぎるほどだったのでレストランから苦情が出ることはなかった。この食事会はとても頻繁に行われたので、金銀の市場価値が暴落することになった。

 

 次回もファーストコンタクトは続きます。 

 

 

 

 

第2回 群生型生物

 庭いじりをしていたら降ってきた妄想はまだまだ続きます。

 ある日、巨大な宇宙船が地球を周回する軌道に乗った。地球人の前に現れた宇宙人は地球の生物とはかなり違っているので、これを理解しないと彼らと地球人の間で起こったドタバタ劇もわかりにくくなる。ここでは宇宙人について説明しよう。一言で言うとこの宇宙人は群れとして生存していて、記憶を共有することができる生物だった。地球人は後に彼らを群生型生物と名付けた。

 当初 来訪した宇宙人は3種類あると思われた。ところが彼らは実は1つの個体の分身だったのだ。言わば宇宙人の一人一人は偽個体とも言うべきなのだが、ここでは簡便に個体とする。この他に姿を見せない個体が2種類あるようだ。

 ノッコ型個体 身長1m コケシかマトリョーシカを思わせるずんぐりした胴体に指を6本持つ腕が2本と足が2本ある。しかし、個体によっては腕が3本とか足が3本とか4本のものも観察されており、変異はルーズらしい。頭部に大きな目が2つある。口や鼻は見当たらない。実は後に頭頂部に口があることがわかった。最も個体数が多く当初は労働者階級と見なされた。

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 注:これら画像には著作権があります。厳密には使用不可です。

 ガンギ型個体 身長2m 体は細く外皮が硬そうで、2本の長い腕と4本の足を持つ。小さな3角形の頭に2つの目があり、その姿はカマキリを連想させる。彼らが現れるときにはガンギ型1~2体にノッコ型5~6体がグループを作ることが多い。管理職階級と見なされた。

 メロル型個体 直径1.5mのイソギンチャクのような生物で多数の触手がある。ゆっくりと移動することはできるが、普段はお神輿のような座席に乗ってガンギ4体に担がれて移動する。地球人との会議や情報伝達の席に現れる。ノッコとガンギは音声でコミュニケーションを取ることができ、地球人とも会話できるが、メロルは音声は出せない。体のほとんどが神経細胞で出来ていて記憶と思考を担当する知識階級と見なされた。 

 スラッシュ型個体 危険が迫ったときにのみ現れる戦闘を専門とする個体である。高速で動くことができる。地球人の前に現れなかったとされているが、実は登場はしたが動きが速すぎて地球人には認識できなかったのではないかと言われている。その姿は秘密である。

 ドラゴ 体長10mを越える巨大なヒトデのような生物。これが群生型生物の本体である。彼らが地球人に見せた母星の映像には、ドラゴの体からノッコやガンギやメロルが次々と生み出されるところが写されていた。また、一度生み出された個体もドラゴと接触しその体内に埋め込まれて行く姿もあった。つまり、ノッコなどの個体はドラゴから産み出され、たびたびドラゴと接触することにより記憶を交換していると思われる。ドラゴは船から降りることはなく、地球人の前に姿を現すことはなかった

 これらの個体をまとめて、この宇宙人をマルコ人と呼ぶことにする。マルコ人は基本的には地球上の生物に似ていた。つまり、生存には水と酸素を必要とし有機物を摂取する。体の主成分は蛋白質であり、音を聞き、光を見ることができた。ただし、宇宙船内の大気の組成は地球とほぼ同じであるが気圧が半分しかないとか、赤外線を見ることができるとか、体温が約20℃であるとか、省エネに対応できるようになっていた。

 

 マルコ人の注目すべき特質を挙げてみると
1,個体は死ぬことやけがをすることを恐れない。
 マルコ人は記憶を共有するので、群れ全体で一つの個体である。従って、ノッコやガンギは人間に例えれば髪の毛とか爪の先のようなものなのだ。当初 彼らは全くためらわず地球人の宇宙ステーションに入ってきて、機械をいじろうとした。そのため感電したりロケットの噴射口に首を突っ込んで何体か死亡した。学習能力はあるので同じ事故を繰り返すことはないが、無鉄砲な行動はその後も続けられた。

2,活動時間は約6時間。3~4時間の休憩が必要。
 各個体は頻繁にドラゴと接触して記憶を放出し整理する必要があるらしい。地球生物の睡眠に相当する活動である。ちなみにマルコ人は極端に長寿なので獲得する記憶が膨大になる。すべての記憶を貯め込むことはできないので、記憶の整理は頻繁に行われていて、不要な記憶は躊躇なく捨てているらしい。そして共有すべき情報はドラゴが選択して各個体と共有している。

3、基本的にとても友好的である。
 なぜなら記憶を共有できるので、相手に苦痛を与えると、その苦痛を後で共有しなければならなくなるからである。マルコ人は地球人のことを慎重に時間をかけて学習したが、地球人が互いに殺し合い、場合によっては一つの民族を根絶やしにすることもあることは、彼らにとってはなかなか理解できないことだったらしい。ファーストコンタクトの初期にはマルコ人はとてもオープンに地球人と色々な情報を共有するスタンスだったのだが、次第に慎重になったのは、地球人に対する理解の進み具合が影響していたと考えられた。そしてついに地球を去ることになったのは、地球人は他の部族と平和的に共存できないと結論したためと推測できる。相手に与える苦痛を共感できるようになれば地球人ももっと平和的な種族になるのだろうが、残念ながら生物としての人類の特質はそうなっていない。

  マルコ人は周回軌道に到達してから2年間をファーストコンタクトの準備に費やした。次回はコンタクトです。

 

第1回 岩の船の接近

  庭の草取りや木々の剪定をしていると手は動いていても頭は比較的暇です。そんな時いろいろなアイデアや夢想が湧いてきます。突然ですが地球外生命体とのファーストコンタクトの可能性について考えてみたいと思います。なぜならアイデアが降ってきてしまったからです。

f:id:tanemaki_garden:20220213144530p:plain (注:この写真はアンドロメダ星雲です。)

 銀河系には2000億個以上の星があるそうである。これだけあるのだから太陽と同じような星もあるはずだし、地球のような惑星もあるはずだし、生命が生まれた惑星もあるはずだ。その中から知性を持つ生命が誕生することも確率は低くても、これだけ星があるのなら可能性はあるはずである。ところが、彼らと地球の人類が出会う可能性はと言うと、彼らが住む星と地球との距離が問題になってくる。光より速い速度は存在しないことを相対性理論は示している。SFの世界ではワープとかハイパースペース航法とかドコデモドアを使って距離の問題を解決してしまうが、私の理科の知識によるとそんなことは実現できません。光の速度は超えられないのだ。そうなると、仮に宇宙人がいたとして、現在の地球の科学力では考えられないほどのスピードで飛ぶ宇宙船を開発できたとしても、地球に到達するには何万年もかかることになる。つまり地球に飛来できる宇宙人はとてつもなく長い寿命と数万年の静寂と孤独に耐えるメンタルな強さを持っている必要がある。それでも、これだけの星があるのだから、地球に到達できる宇宙人が存在する可能性はあるはずだ。そしてついにある日 宇宙人が乗った船が地球に接近してきた。 

f:id:tanemaki_garden:20220213144856p:plain 注:小惑星の想像図。WEB採取

 その船の外見は直径10kmの岩の塊だった。高速で飛ぶ船にとって宇宙空間に浮かぶ物質は小石のように小さな物であっても非常に危険である。ある程度大きな物体は察知して破壊することが出来るのでむしろ小さな物体の方が危険と言うことも出来よう。そのため船は厚さ2kmもの岩の鎧をまとっていた。しかも10万年の旅の中で宇宙空間のチリを吸収して船は不規則な形に成長していた。

 船は推力を岩の鎧の一部を核融合反応のエネルギーで高温のプラズマに変えて噴射することで得ている。プラズマは高速で噴射されるので少ない質量で大きな推力を得ることができる。噴射は断続的で約0.5秒間隔だった。ここではパルスジェットと呼んでおこう。さらに船は帆を持っていた。この帆は太陽光線を利用して発電すると共に太陽からの粒子の流れである太陽風を受けて減速する機能を持っていた。太陽系に近づくと宇宙人たちは船外作業を開始した。彼らは岩の鎧の一部を削り取り、帆を揚げる準備をした。船は向きを180度回転させ逆噴射を開始した。パルスジェットは強烈な光を発する。それは地球からも観察できた。天文学者たちは突然現れた宇宙の異変に望遠鏡を向け、船がゆっくりと帆を揚げるところを目撃した。その姿は地球の多くの人々にとって精神の根幹を揺るがすものだった。その帆は十字架の形をしていたのだ。

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 (注:この画像の著作権は未確認です。)

 船の軌道はまっすぐに太陽に向かっていた。宇宙から来た巨大な十字架が太陽に突入する。このことは様々な宗教的論争を引き起こした。しかし、多くの人々は楽観的だった。神は奇跡を起こすはずだった。その予想は当たって、船は軌道を変えて水星と金星の間で太陽を回る軌道に乗った。この軌道変更は慣性飛行ではありえない動きだったので、人類はこの船は意志を持つ何者かにより操縦されていることを確信した。そして、初めて地球外から来た知的生命体と出会うことを予想した。船は太陽のエネルギーを吸収して、その機能を回復させた。いつ終わるかわからない旅の中で船は最小限の機能を残して休眠していたのだ。3周回った後 船は再びパルスジェットをふかして、多くの人々の予想通り、今度はまっすぐに地球に向かってきた。直径10kmの岩の塊が地球に衝突したらどうなるか、物理学者達の予測は人類が恐竜と同様に絶滅するだろうということだったが、ここでも多くの人は楽観的であった。特に十字架の形を重視する人たちは歓喜の興奮をもって船を迎えようとしていた。

 人々の期待した通り船は再び軌道を修正し地球を周回する軌道に乗った。その姿は小さな望遠鏡でも観察できた。それから2か月ほど何事も起こらないように見えた。やがて人類は人工衛星との連絡が次々と途絶えたことに気が付いた。船が人工衛星を吸収していたのだ。次に地球上のコンピューターが片っ端からハッキングされ始めた。そして岩の船が宇宙ステーションISSに接近し始めた時、地球上は大騒ぎになった。宇宙飛行士を宇宙人に会わせようとの提案もあったが、リスクが高すぎると判断し、宇宙飛行士は大急ぎで地球に帰還することになった。宇宙飛行士たちは帰還するシャトルの中から、岩の船が入口を開けてISSを飲み込んでいくところをまじかで観察することになった。あまりにもタイミングが良かったので、宇宙人は宇宙飛行士が退避するのを待っていたと解釈された。

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 無人ISSは岩の船の中を探るべくカメラとセンサーを忙しく動かした。地球との通信は妨害されず遠隔操作は可能だった。船の中は暗闇だった。後でわかったことだが、宇宙人は赤外線を見ることができる種族だった。空気は0.5気圧だったが、成分は窒素と酸素の混合で地球とほぼ同じだった。マイクが音を拾ったので何か動く物が多数 宇宙ステーションを取り巻いていることがわかった。地球からの操作で宇宙ステーションのドアが開いた。彼らが船内に入って来た時、人類はようやく宇宙人の姿を見ることになった。驚いたことに宇宙人たちは全く躊躇せずに宇宙ステーションに入って来てそこら中の設備に触りだした。高圧電流に触れて卒倒するものがいたり、外部で噴射孔をのぞき込んでいるものがいるのにロケットを噴射させて焼死するものがいたり大騒ぎになった。6時間ほどの狂乱の視察の後、宇宙人達は一斉に待避し、その後4時間ほどの静寂があった。そして、また集団がやってきて大騒ぎがあって、静寂があって、と3回ほど繰り返した後、宇宙人達はコンピューター部分を取り外して持ち出した。それから1ヶ月ほどは何も起こらなかった。その間に地球人は宇宙人に対するメッセージとして地球と人類を紹介する動画を作った。再び宇宙人の集団がISSに入って来たとき、ISSのスクリーンにそのメッセージを放映した。宇宙人達は興味を持ったようでスクリーンに群がった。ある部分で彼らは「one more time」と英語ではっきりと言った。地球の司令部は宇宙人が英語をしゃべったことで大騒ぎになった。地球の司令部はその部分の映像を繰り返した。それは南太平洋の海中の映像であり、宇宙人が興味を示したのは珊瑚だった。

 この話は調子良く進みますが、実は困ったことがあります。地球と周回軌道にある岩の船を往復する手段が思いつかない(アイデアが降ってこない)のです。わずかな物資を周回軌道に持ち上げるためにいちいちあの大げさな巨大ロケットを使わなければならないのでは効率が悪すぎます。SFにある反重力エンジンがあれば良いのですが、一応 私の理科の知識で妥当と思われる科学技術だけで話を組み立てる方針ですので使えません。宇宙エレベーターを建設するには資材も時間も途方もなくかかりそうでこの話の枠の中には収まりそうもない。というわけで以後の話の中でボートがひらひらと飛び回って岩の船と地球を往復しますが、そのメカニズムは説明できません。

 次回はこの船に乗ってきた宇宙人について解説します。