百万年の船

はじめは宇宙人とのファーストコンタクトについて私の理科の知識を総動員して超真面目に空想しています。その後、空想の幅が広がりました。

第1回 岩の船の接近

  庭の草取りや木々の剪定をしていると手は動いていても頭は比較的暇です。そんな時いろいろなアイデアや夢想が湧いてきます。突然ですが地球外生命体とのファーストコンタクトの可能性について考えてみたいと思います。なぜならアイデアが降ってきてしまったからです。

f:id:tanemaki_garden:20220213144530p:plain (注:この写真はアンドロメダ星雲です。)

 銀河系には2000億個以上の星があるそうである。これだけあるのだから太陽と同じような星もあるはずだし、地球のような惑星もあるはずだし、生命が生まれた惑星もあるはずだ。その中から知性を持つ生命が誕生することも確率は低くても、これだけ星があるのなら可能性はあるはずである。ところが、彼らと地球の人類が出会う可能性はと言うと、彼らが住む星と地球との距離が問題になってくる。光より速い速度は存在しないことを相対性理論は示している。SFの世界ではワープとかハイパースペース航法とかドコデモドアを使って距離の問題を解決してしまうが、私の理科の知識によるとそんなことは実現できません。光の速度は超えられないのだ。そうなると、仮に宇宙人がいたとして、現在の地球の科学力では考えられないほどのスピードで飛ぶ宇宙船を開発できたとしても、地球に到達するには何万年もかかることになる。つまり地球に飛来できる宇宙人はとてつもなく長い寿命と数万年の静寂と孤独に耐えるメンタルな強さを持っている必要がある。それでも、これだけの星があるのだから、地球に到達できる宇宙人が存在する可能性はあるはずだ。そしてついにある日 宇宙人が乗った船が地球に接近してきた。 

f:id:tanemaki_garden:20220213144856p:plain 注:小惑星の想像図。WEB採取

 その船の外見は直径10kmの岩の塊だった。高速で飛ぶ船にとって宇宙空間に浮かぶ物質は小石のように小さな物であっても非常に危険である。ある程度大きな物体は察知して破壊することが出来るのでむしろ小さな物体の方が危険と言うことも出来よう。そのため船は厚さ2kmもの岩の鎧をまとっていた。しかも10万年の旅の中で宇宙空間のチリを吸収して船は不規則な形に成長していた。

 船は推力を岩の鎧の一部を核融合反応のエネルギーで高温のプラズマに変えて噴射することで得ている。プラズマは高速で噴射されるので少ない質量で大きな推力を得ることができる。噴射は断続的で約0.5秒間隔だった。ここではパルスジェットと呼んでおこう。さらに船は帆を持っていた。この帆は太陽光線を利用して発電すると共に太陽からの粒子の流れである太陽風を受けて減速する機能を持っていた。太陽系に近づくと宇宙人たちは船外作業を開始した。彼らは岩の鎧の一部を削り取り、帆を揚げる準備をした。船は向きを180度回転させ逆噴射を開始した。パルスジェットは強烈な光を発する。それは地球からも観察できた。天文学者たちは突然現れた宇宙の異変に望遠鏡を向け、船がゆっくりと帆を揚げるところを目撃した。その姿は地球の多くの人々にとって精神の根幹を揺るがすものだった。その帆は十字架の形をしていたのだ。

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 (注:この画像の著作権は未確認です。)

 船の軌道はまっすぐに太陽に向かっていた。宇宙から来た巨大な十字架が太陽に突入する。このことは様々な宗教的論争を引き起こした。しかし、多くの人々は楽観的だった。神は奇跡を起こすはずだった。その予想は当たって、船は軌道を変えて水星と金星の間で太陽を回る軌道に乗った。この軌道変更は慣性飛行ではありえない動きだったので、人類はこの船は意志を持つ何者かにより操縦されていることを確信した。そして、初めて地球外から来た知的生命体と出会うことを予想した。船は太陽のエネルギーを吸収して、その機能を回復させた。いつ終わるかわからない旅の中で船は最小限の機能を残して休眠していたのだ。3周回った後 船は再びパルスジェットをふかして、多くの人々の予想通り、今度はまっすぐに地球に向かってきた。直径10kmの岩の塊が地球に衝突したらどうなるか、物理学者達の予測は人類が恐竜と同様に絶滅するだろうということだったが、ここでも多くの人は楽観的であった。特に十字架の形を重視する人たちは歓喜の興奮をもって船を迎えようとしていた。

 人々の期待した通り船は再び軌道を修正し地球を周回する軌道に乗った。その姿は小さな望遠鏡でも観察できた。それから2か月ほど何事も起こらないように見えた。やがて人類は人工衛星との連絡が次々と途絶えたことに気が付いた。船が人工衛星を吸収していたのだ。次に地球上のコンピューターが片っ端からハッキングされ始めた。そして岩の船が宇宙ステーションISSに接近し始めた時、地球上は大騒ぎになった。宇宙飛行士を宇宙人に会わせようとの提案もあったが、リスクが高すぎると判断し、宇宙飛行士は大急ぎで地球に帰還することになった。宇宙飛行士たちは帰還するシャトルの中から、岩の船が入口を開けてISSを飲み込んでいくところをまじかで観察することになった。あまりにもタイミングが良かったので、宇宙人は宇宙飛行士が退避するのを待っていたと解釈された。

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 無人ISSは岩の船の中を探るべくカメラとセンサーを忙しく動かした。地球との通信は妨害されず遠隔操作は可能だった。船の中は暗闇だった。後でわかったことだが、宇宙人は赤外線を見ることができる種族だった。空気は0.5気圧だったが、成分は窒素と酸素の混合で地球とほぼ同じだった。マイクが音を拾ったので何か動く物が多数 宇宙ステーションを取り巻いていることがわかった。地球からの操作で宇宙ステーションのドアが開いた。彼らが船内に入って来た時、人類はようやく宇宙人の姿を見ることになった。驚いたことに宇宙人たちは全く躊躇せずに宇宙ステーションに入って来てそこら中の設備に触りだした。高圧電流に触れて卒倒するものがいたり、外部で噴射孔をのぞき込んでいるものがいるのにロケットを噴射させて焼死するものがいたり大騒ぎになった。6時間ほどの狂乱の視察の後、宇宙人達は一斉に待避し、その後4時間ほどの静寂があった。そして、また集団がやってきて大騒ぎがあって、静寂があって、と3回ほど繰り返した後、宇宙人達はコンピューター部分を取り外して持ち出した。それから1ヶ月ほどは何も起こらなかった。その間に地球人は宇宙人に対するメッセージとして地球と人類を紹介する動画を作った。再び宇宙人の集団がISSに入って来たとき、ISSのスクリーンにそのメッセージを放映した。宇宙人達は興味を持ったようでスクリーンに群がった。ある部分で彼らは「one more time」と英語ではっきりと言った。地球の司令部は宇宙人が英語をしゃべったことで大騒ぎになった。地球の司令部はその部分の映像を繰り返した。それは南太平洋の海中の映像であり、宇宙人が興味を示したのは珊瑚だった。

 この話は調子良く進みますが、実は困ったことがあります。地球と周回軌道にある岩の船を往復する手段が思いつかない(アイデアが降ってこない)のです。わずかな物資を周回軌道に持ち上げるためにいちいちあの大げさな巨大ロケットを使わなければならないのでは効率が悪すぎます。SFにある反重力エンジンがあれば良いのですが、一応 私の理科の知識で妥当と思われる科学技術だけで話を組み立てる方針ですので使えません。宇宙エレベーターを建設するには資材も時間も途方もなくかかりそうでこの話の枠の中には収まりそうもない。というわけで以後の話の中でボートがひらひらと飛び回って岩の船と地球を往復しますが、そのメカニズムは説明できません。

 次回はこの船に乗ってきた宇宙人について解説します。